2025年6月21日土曜日

断食と体重と脳の働き

 断食(糖質、脂質制限食を含む)を始めると、まず体内に蓄えられているグリコーゲンが急速に使われる。

肝臓と筋肉に合計400〜500gほど存在するグリコーゲンは、1〜2日でほぼ枯渇し、これに伴って約3倍量の水分も失われるため、開始直後に1.5〜2kg前後の体重減少が起こる。

さらに腸内容物の減少も加わり、初週は2〜3kg落ちることも珍しくない。ただしこの段階の減少はほとんどが水分であり、脂肪燃焼による減量はまだ少ない。

脂肪が本格的に燃えるのはグリコーゲンが枯渇した後である。

脂肪は1gあたり約9kcalのエネルギーを持ち、糖の2倍以上効率的な燃料だ。断食中に必要な2000〜2500kcalを脂肪だけで賄うとすると、1日200〜350gの脂肪が利用され、

断食をしても1か月で最大9kg程度が理論的限界となる。

したがって初月は「水分減少+脂肪燃焼」で8〜12kg、それ以降は月6〜9kgのペースに落ち着くと考えられる。

一方、断食の面白さは体重減少にとどまらず、脳の働きに変化をもたらす点にある。

糖が不足すると、肝臓は脂肪酸からケトン体を産生し、これが脳の代替燃料として利用される。

特にβ-ヒドロキシ酪酸はブドウ糖よりも酸化効率に優れ、ニューロンのミトコンドリアを活性化させる。結果として神経活動が安定し、エネルギー利用の効率が高まる。これが「頭が冴える」という実感の一因である。

さらに、断食時はアドレナリンやノルアドレナリンの分泌が増加し、交感神経優位の覚醒状態が続く。
これにより集中力や注意力が高まる。

加えて、断食やカロリー制限で脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加することが知られており、神経可塑性やシナプス形成を促進する。学習や記憶の能力向上に寄与すると考えられ、実際に動物実験では断食群で学習成績の改善が報告されている。

神経伝達物質のバランスも変化する。ケトン体は抑制性のGABAと興奮性のグルタミン酸の均衡を調整し、過剰な神経興奮を抑える働きを持つ。
これはてんかん治療にケトン食が応用されていることからも理解できる。過剰な興奮が減る一方で、覚醒を保つノルアドレナリンが働くため、「静かに研ぎ澄まされた集中力」が得られる環境になる。

また、断食中は消化管活動が抑えられ、副交感神経優位による食後の眠気が起きない。血流が脳へ優先的に向かい、注意力が保たれやすいことも集中感を強める要因だろう。

進化的に見れば、飢餓状態こそ狩猟や探索に全精力を注ぐ必要があったはずで、このような仕組みは人類の生存戦略の一部とも考えられる。

まとめると、
断食の最初の体重減少は水分が主体だが、その後は1日200〜300gの脂肪が安定して燃える。
脳はケトン体という効率的燃料を得て、交感神経刺激や神経伝達物質の調整により、集中力や学習能力が一時的に高まる。体重減少とともに脳の活性化を感じるのは、この代謝的・神経生理学的変化が背景にあるといえる。

肥満と學校の成績が相関するのもこれが影響している可能性があるかもしれない。