手背採血が嫌いな患者さんやナースがいる理由
手掌は神経が集まっており手掌側に針を刺すと痛い。これは正しいです。
このことから手掌=手は痛いという認識から、手背もきっと痛いので採血は手背でもあまりしないという習慣があります。
しかしそれは間違いで手背は肘、膝と同じで皮膚伸展が求められる関節伸側の皮膚は基本的に痛みに鈍感なのです。
実際に肘、膝、手の伸側と屈側をツネってください。屈側は痛いですが伸側は痛くないです。
解剖学的・生理学的にも、手の伸側(手背)の方が肘の屈側より痛みは少ないことが多いのはよく知られています。
また末梢にいけば行くほど血管は見えやすく、刺入部位を間違えることも少なく採血成功率は上がります。
さらに末梢にいけばいくほど枝分かれした神経は細くなり神経損傷の規模も小さく障害リスクもほとんどありません。
むしろ痛い屈側の肘、前腕にこだわり続け、見えない静脈を針で探して、動脈を傷つけ血腫を作ったり、太い神経を針で傷つけて神経障害の後遺症を起こしてしまっている症例を見かけます。それらの事実に気に留めないことは残念に思います。
肘での太い神経の損傷は 肘以下の広範囲な後遺症をもたらします。末端である手背には細い神経ばかりで仮に損傷したとしてもそのようなことは起こりません。
肘での採血は、触診ないし視診で血管が確認できる場合に限定すべきと思います。
また留置針を肘でしない最大の理由は、腕を曲げられなくなるからです。
留置針は手背でするのが一般的です。
まずは肘で探し、容易であれば実施し、困難であれば手背で探す。
ただ肘、前腕、手背にも血管が見当たらない方はまれにいますが。
看護の教科書は医師側からみると、思い込みや非常に滑稽なことが書かれていることがあるのはよく知られたことです。もちろん下記のような要点生理は看護の教科書に出てきません。
<< 肘の屈側(肘窩部)と手の伸側(手背)の比較(痛みや解剖の観点)>>
■ 神経との距離
肘の屈側(肘窩部):
△ 正中神経・尺骨神経が近くに存在し、針が近づくとしびれや痛みを感じやすい
手の伸側(手背):
◎ 感覚神経の枝のみで、太い神経とは距離があり、傷つけにくい。
■ 神経との距離
肘の屈側(肘窩部):
△ 正中神経・尺骨神経が近くに存在し、針が近づくとしびれや痛みを感じやすい
手の伸側(手背):
◎ 感覚神経の枝のみで、太い神経とは距離があり、傷つけにくい。
■ 穿刺の深さ
肘の屈側(肘窩部):
△ 静脈が深めにあり、針を深く刺す必要がある
手の伸側(手背):
◎ 静脈が浅く、浅い穿刺で済む
△ 静脈が深めにあり、針を深く刺す必要がある
手の伸側(手背):
◎ 静脈が浅く、浅い穿刺で済む
■ 皮膚・皮下組織
肘の屈側(肘窩部):
△ 脂肪や腱があるため、針が入りにくい/抵抗感がある
◎ 皮膚は薄いが、穿刺の抵抗は少なく痛みは一瞬
肘の屈側(肘窩部):
△ 脂肪や腱があるため、針が入りにくい/抵抗感がある
◎ 皮膚は薄いが、穿刺の抵抗は少なく痛みは一瞬
■ 神経密度
肘の屈側(肘窩部):
△ 太い神経が走っており、深部の痛みが出やすい
手の伸側(手背):
◎ 末梢神経の浅枝が中心で、局所的なチクッとした痛みのみ
肘の屈側(肘窩部):
△ 太い神経が走っており、深部の痛みが出やすい
手の伸側(手背):
◎ 末梢神経の浅枝が中心で、局所的なチクッとした痛みのみ
■ 構造の安定性
肘の屈側(肘窩部):
△ 静脈が浮きづらく、動きやすいため痛みが出やすい
手の伸側(手背):
◎ 血管が張っており、穿刺が安定していることが多い
肘の屈側(肘窩部):
△ 静脈が浮きづらく、動きやすいため痛みが出やすい
手の伸側(手背):
◎ 血管が張っており、穿刺が安定していることが多い