仮面の反対、本音の計算――OTC類似薬「自費化」が医療現場にもたらすもの
OTC類似薬の自費化をめぐる議論では、医療者は建前として反対を表明しがちだ。だが出来高払い中心の現行制度では、「薬を出さない/少なく出す」ほうが収益の安定につながる――そんな感覚が現場に根づいているのも事実だ。処方を絞れば再診を早めに設定でき、症状の改善が鈍ければ受診回数は自然と増え、OTCでこじれた症例が戻れば検査や処置の単価は上がる。倫理的に望ましい動機ではないが、制度がつくる力学として働きやすい。元来、処方をあえてあまりしない医療者がいるのもそういった思惑があったりする。
加えて、OTC類似薬はそもそも保険点数が低く、院内の実勢原価や調剤コストを下回る“原価割れ”に近い状況が生じている。これを是正するために点数を引き上げるくらいなら、いっそ保険収載を外して自由価格の自費に振り替えてしまえばよい――そうしたバックグラウンドでの発想があるのも確かだ。
結果として患者の行動様式が変わる。おそらく医療費は増え得る。自己判断の不安から“念のため受診”が増え、自己治療の経緯があるほど見逃し回避のための検査・再診が積み上がりやすい。納得を求めた受診のハシゴは回数を押し上げ、OTCやサプリの併用は相互作用の精査を招く。高齢化と重なれば、服薬管理の難しさが失敗を増やし、入院や介護コストへと波及する。
医療者がおそらく「本気の反対」まで踏み込まないのはこういった理由からだろう。薄い処方や過剰再診、重症例の受け入れは結果として、制度変更が収益を下支えするかもしれないという淡い期待が同居する。
OTC類似薬の自費化は、医療の入り口を患者側に近づける一方で、制度の矢印と行動の導線がズレれば医療費を押し上げかねない。建前と本音のねじれを直視すること――まずはそこから始まる。
OTC類似薬の自費化をめぐる議論では、医療者は建前として反対を表明しがちだ。だが出来高払い中心の現行制度では、「薬を出さない/少なく出す」ほうが収益の安定につながる――そんな感覚が現場に根づいているのも事実だ。処方を絞れば再診を早めに設定でき、症状の改善が鈍ければ受診回数は自然と増え、OTCでこじれた症例が戻れば検査や処置の単価は上がる。倫理的に望ましい動機ではないが、制度がつくる力学として働きやすい。元来、処方をあえてあまりしない医療者がいるのもそういった思惑があったりする。
加えて、OTC類似薬はそもそも保険点数が低く、院内の実勢原価や調剤コストを下回る“原価割れ”に近い状況が生じている。これを是正するために点数を引き上げるくらいなら、いっそ保険収載を外して自由価格の自費に振り替えてしまえばよい――そうしたバックグラウンドでの発想があるのも確かだ。
結果として患者の行動様式が変わる。おそらく医療費は増え得る。自己判断の不安から“念のため受診”が増え、自己治療の経緯があるほど見逃し回避のための検査・再診が積み上がりやすい。納得を求めた受診のハシゴは回数を押し上げ、OTCやサプリの併用は相互作用の精査を招く。高齢化と重なれば、服薬管理の難しさが失敗を増やし、入院や介護コストへと波及する。
医療者がおそらく「本気の反対」まで踏み込まないのはこういった理由からだろう。薄い処方や過剰再診、重症例の受け入れは結果として、制度変更が収益を下支えするかもしれないという淡い期待が同居する。
OTC類似薬の自費化は、医療の入り口を患者側に近づける一方で、制度の矢印と行動の導線がズレれば医療費を押し上げかねない。建前と本音のねじれを直視すること――まずはそこから始まる。